「一緒に運んではくれないんですね?」

「はい。でも配膳のお手伝いはします」


 調子の良い黒桜に花は乾いた笑いを零したが、とりあえずこれからは料理の配膳方法で悩むことはなさそうだ。


「……行こうか、ちょう助くん」


 そうして花はちょう助と連れ立って、再度虎之丞の待つ、松の間の扉を開けた。


「失礼いたします、お食事の準備が整いましたので、お支度をさせていただきます」


 声を掛けてから扉を開けると八雲はまだ部屋の中にいて、ふたりは窓際の席で勝負の真っ最中といった様子だった。


「おお! やっと来たか! 待ちくたびれたぞ!」


 勝負の行方はどうだったのか──などということは、恐ろしくて聞けない。

 声を上げて飛んできた虎之丞は座卓の前に腰を下ろすと、目を爛々と輝かせて夕食が並べられるのを待っていた。


「では、失礼いたします」


 花はプレッシャーに負けそうになりながらも礼をしてから、手順通りに料理の数々を並べていった。

 そうしている間に自然な仕草で席を立った八雲は、部屋の隅で膝を折って静かに控えた。

 大袈裟に高鳴る鼓動の音だけが耳について、花の手は緊張で震えていた。


(落ち着け……落ち着け、大丈夫……)


先程、虎之丞に雷を落とされたのが効いている。

 それでも精一杯平静を保った花は準備を終えると、ちょう助と共に座卓の横に畏まった。