その日から、毎晩、楽くんは連絡をくれた。

毎日、8時間以上練習してるという楽くんが、少しの時間を見つけては電話をくれる。

耳に、楽くんの低い声が優しく響く。

そうして、コンクールの全国大会まであと10日と迫った日の夕方、私は店の奥で休憩に入った。

お店のコーヒーを飲みながら携帯を開くと、楽くんからのメールが届いていた。

私は、いつもの他愛もないメールだろうと思い、何の気無しにそのメールを開いた。

〔さっき、自転車で事故って、
 今、生まれて初めて救急車に乗ってる〕

えっ!?

私は、慌てて楽くんに電話を掛ける。

事故って…… 事故って…… 大丈夫なの?
けがしたの?
メールができてるんだから、命に別状はないんだよね?

楽くんが電話に出るまで、悪い考えが頭の中をグルグルと回る。

『もしもし』

楽くんだ!

「もしもし! 楽くん?
 メール見たよ。大丈夫なの?」

焦った私は、早口でまくし立てる。

『うん、大丈夫。
 頭も検査してもらったけど、
 多分大丈夫だって。
 ちょっと、骨折しただけで済んだから』

骨折!?

「骨折って、どこを!?」

もうすぐ、コンクールなのに……

『小指と薬指、やっちゃって、今、包帯で
 ぐるぐる巻きにされてる』

そんな……

あんなに頑張ってたのに……

『ごめん。
 コンクール終わっても、遊園地行けないや』

「そんなこと……」



私は居ても立ってもいられなくて、楽くんから病院の場所を聞くと、店長に早退させてもらって、病院へと急いだ。