19時。

「お先に失礼します」

私は、店長と夕方からのアルバイトの女の子に挨拶をする。

店を出た所で、柱にもたれて立つ楽くんに会った。

「純鈴さん、お疲れ様。
 どこ行こうか?」

隣に立つ楽くんは、思った以上に背が高かった。

私は、いつも一段高いカウンターの中にいるので、周りの人と比べて、なんとなく背が高いとは思っていたけど、こんなに見上げるほど高いとは思わなかった。

「えっと……」

これ、今さら、断れないよね?

どうしようかと私が迷っていると、

「じゃあ、飲みに行こ」

と誘われた。

「あ、ごめん。
 私、車だから」

よかった。これで断れる。

「そっか。じゃあ、食事だね。
 イタリアンでいい?」

2時間も待っててくれた彼に、いやとは言えなくて、結局、同じショッピングモールにあるレストラン街で食事をすることになった。



 楽くんとの食事は、思った以上に楽しくて、お互いのいろんなことを話した。


楽くんは、いろんなピアノのコンクールに出場しているらしい。

先日、楽くんが1番目標にしてるコンクールの地方大会があり、そこで優勝した楽くんは、来月、全国大会への出場が決まっているそうだ。

「すごい!
 楽くんのピアノ、すごく綺麗だもん。
 全国大会も頑張ってね」

大学4年生の楽くんにとって、これがきっと最後の大会。

悔いなく、最後まで頑張ってほしい。

「じゃあさ、純鈴さん。
 全国大会終わったら、一緒に遊園地行こ」

「え?」

「俺さ、純鈴さんと遊園地に行くためなら、
 今まで以上に頑張れると思うんだよね」

どうしよう……

「じゃあ、にゅ、入賞したら!」

「ええ!?
 全国で入賞するって、
 ものすごく大変なんだよ?」

そう…だと思うけど。

「でも、もう出場は決まってるんだから、
 今から、頑張ったかどうかは、結果を見ないと
 分からないじゃない?」

大体、私は25歳の社会人で、楽くんはまだ22歳の学生だから、どんなに楽しくてもやっぱりちょっと無理がある気がして……

「分かった。
 俺、入賞できるように頑張るよ。
 だから、入賞したら、絶対、行こうね」

「う、うん」