「なんだ、変な顔して」

「う、ううん。全然そんな事ないんだけど、ありがとう」

京に真顔でサラッとそういう事を言われると、照れくさくて何だか調子が狂ってしまう。

褒められる為に頑張っているわけじゃないけれど、でもなんだか努力が報われるような気がして素直に嬉しかった。



✳︎



『おい桜、起きろ。いつまで寝てる』


──翌朝。
そんな京のモーニングコールで目覚めた私は、スマホに表示されていた時計を見てハッとした。

「え…わぁっ、もうこんな時間!」

8時。砂川さんとの約束の時間まで、あと1時間半しかない。
そんな事に気がついて眠気なんてものは一気に飛んでいってしまった。

『…何回かけても出ないからもしかしたらと思ったら、案の定寝坊か』

「ごめん京、まだ家?」

『いや、もうお前のマンションの駐車場』


駐車場、というのも、京は毎日私の事を事務所まで車で送ってくれるのだ。
私がペーパードライバーをいつまでも卒業できないのも、京がどこにでも連れて行ってくれるからという甘えからだ。

「急いで準備します」

そう言って電話をきり、急いで洗面所に駆け込んで準備を始める。
顔を洗って歯磨きをして、パジャマを脱いでからハンガーにかけてあったスーツに着替える。