京の車の助手席に乗り込み、最初にかけられた言葉はそれだった。
シートベルトをはめ、車が発進するのと同時に鞄に入れていたブラシを取り出して寝癖を撫でるようにして何度もとかす。
「若い女社長だからって舐められないように、身だしなみだけはちゃんとするんじゃなかったのか」
「うっ…そうでした」
京のそんな言葉がグサっと胸にささる。
そういう京はシワひとつないスーツもピシッときまっていて、サラサラのその髪の毛には寝癖なんてついているはずも無かった。
「…ごめんなさい」
誤りながらブラシで寝癖を何度もとかす。
それでも頑固な寝癖は簡単には治ってくれなくて、サンバイザーについたミラーを確認しながら泣きそうになった。
「別に桜が朝に弱いのは今に始まったことじゃないからな、間に合えばそれでいい。
ただ、その寝癖は直したほうがいい」
その寝癖は直したほうがいい。
京にもそう言われてしまったが、結局車の中では落ち着いたものの完璧に直す事が出来ず、事務所についた頃には砂川さんとの約束の時間ギリギリになってしまっていて、結局そんな頭のまま砂川さんと会うことになってしまった。
「おはよう芝波さん。
時間とってもらってごめんね」
そう言って部屋に入ってきた砂川さんは、プロデューサーの筈なのにまるで芸能人かのようにキラキラとしている。
年齢は、確か30程だっただろうか。
いつか、砂川さんがプロデュースしているタレントよりも素敵だと社員の女の子達が騒いでいるのも聞いた事がある。