「ユリウス?」

「もう一度、スプーンを」

 ユリウスが検食官の男に声をかけると、ヴェロニカは不自然に視線を揺らす。
 その様子にメアリが眉を寄せる中、スプーンが紅茶に沈められると……。

「なんとっ……毒の反応でございます!」

メアリの飲もうとしていた茶の中で、スプーンが、黒色へと変化した。

「そんな……ヴェロニカ様……」

 驚愕したメアリをユリウスが守るように立たせ、背に隠す。
 ヴェロニカは黒くなったスプーンを信じられないといった面持ちで凝視していた。

「反応が、出た? そんな、そんなはずは。だって、心配ないと」

 ひとりごとのように呟き、何度も首を小さく横に振るヴェロニカを、ユリウスの指示を受けた騎士たちが取り囲んだ。

「その反応、毒を故意に入れたと見て間違いないようですね」

 ユリウスの冷たい視線がヴェロニカの心を凍てつかせる。

「ち、違うのですユリウス様! これは陛下の体に害をなすものではないのです!」

「残念です。念のため、侍女たちも共に牢へ」

「はい」

 縋るようなヴェロニカの叫びをかわして部下たちに指示を出すユリウス。

「ユリウス様!」

 青ざめるヴェロニカと侍女たちがサロンから連れ出されると、メアリは「ヴェロニカ様が毒を……」と、落胆した声を落とした。

(純粋に、お茶会に誘ってくださったのではなかったのね)

 イアンやユリウスの言う通り、親族の存在がいかに女王であるメアリにとって危険を孕むものであるかを痛感する。
 しかしメアリは、害をなすものではないと、慌てふためいていたヴェロニカの様子がひっかかっていた。
 咄嗟に浮かんだ苦し紛れの言い訳なのかもしれない。
 けれど、必死なヴェロニカの瞳に嘘はなかったように見えたメアリは、ユリウスに守られながら、静かになったサロンを後にした。