王女であると発覚し、その道を選んだばかりの頃、イアンから『お菓子作りは王女の教養のひとつです』と言われていた。
 以来、数日に一度、お菓子作りのレッスンがあり、メアリはそちらの腕も磨いている。

 トフィーはメアリも好きな菓子のため、少し多めに飾ってもらった。
 他に、小さめに焼いたスコーンやケーキも用意してある。
 ヴェロニカと共に好きなものをケーキ皿に乗せたメアリは、ヴェロニカにお菓子作りコツや美味しい紅茶について尋ねる。

 他愛ない話に乗るヴェロニカの機嫌は良く、時折ユリウスに視線を送るのが気になりつつも、メアリは笑顔で接した。
 立ち昇っていた湯気が和らぎ始め、メアリがいよいよお茶の味を確かめようとカップを持ち上げる。
 そっと鼻に近づけ、香りを楽しむメアリを、自分の紅茶に口をつけながら、食い入るような視線を送るヴェロニカ。
 メアリがカップに口をつける直前、ヴェロニカの瞳孔が興奮したように開いた刹那──。

「陛下」

 ユリウスがメアリの手を大きな手で押さえて止めた。

 ヴェロニカの表情が固さを持つ。
 メアリはどうしたのかと、唇からカップを離してユリウスを見上げた。