朝起きると、意外にも心は落ち着いていた。

学校でもいつも通り、咲月と話した。

凛子と一緒に行動して、晴太と話して、

4人でご飯を食べる。

でも放課後が近づくにつれて、
胸がドキドキしてきた。
心臓の音が凛子にも晴太にも、
咲月にまで聴こえてしまいそうだ。

授業中も、先生の話など耳に入ってこない。
なんて言おうか、どうやって2人になる?

そんな考え事をしているうちに
あっという間に放課後になった。


4人で歩くいつもの帰り道。

大きな交差点の角を
わたしと咲月は真っ直ぐ、
凛子と晴太は右へと曲がっていく。

「じゃあ、また明日な!2人とも!」

晴太は大きく手を振った。

「凛子も、また明日。」

「じゃーな!」


小さな声でがんばってね、と言って凛子は晴太と2人歩いていった。


「俺らも帰るか。」

咲月はさきほど凛子と晴太にもらった誕生日プレゼントをカバンにしまいながら言う。


「ま、待って。」

「ん?」


咲月の方をちらりと見ると
不思議そうな目でわたしをみている。

目が合った瞬間、ドキドキが一気に大きくなった。


頑張れ、わたし。




「どうした?帰んねーの?」


早く言わなきゃ。

早く、早く、頑張れ、頑張れ、






「咲月、わたしね、、、」





「葵!!!」






突然の事だった。
凄い顔で咲月がわたしを突き飛ばした。



倒れ込んだわたしの耳に大きな音が轟く。



ドン!!!!





何が起こったか分からなかった。
大きなトラック、飛び散ったガラス、
たくさんの人が駆けつけてきた。

「あなた、怪我はない?大丈夫!?」

わたしは、、





咲月は?













赤いサイレンと共に遠ざかっていった咲月は
二度と帰らなかった。













もうすっかり暗くなった空には


大きく満ちた月が咲いていた。