きっと、可愛くて、優しくて、田中くんとお似合いと人なんだろうな、なんて想像してみる。
・・・・・・そうすれば、もともと自分なんて勝ち目がなかったのだと言い聞かせることができるから。
「えー、秘密なの?
その子に、告白するの?やっぱり、彼女にしたい?」
彼は、きっと彼女のことを考えているんだろうな。
目付きがすごく優しいし。
「・・・・・・まあね。そのうち彼女にしたいなって思うし、キスとかだってしたいと思うよ。」
『キスしたい』か。
辛いかなぁ。
「本人は、全然気がついてないみたいなんだけどね。」
「そっか、とんだ鈍感ちゃんだね」
更に彼は愛おしそうな目で、
「そうだね」
なんて呟く。
そんな目で私を見ないで欲しい。頭ではわかっていても、私に向けられているみたいに、勘違いして、キュッと胸が音を立ててしまう。
「で、でも、きっと田中くんが告白すればいけるよ!」
『田中くんカッコイイし』と、柄にも無く後付けしてみる。
言ってから、恥ずかしくなって、顔が熱くなった。
「岡本さん。そう思う?」
どっちの言葉に対してかは分からないけど、とりあえず、頷く。
田中くんは、なにかを言うわけでもなく。沈黙が流れた。
私はというと、恥ずかしくて彼の顔が見れず、俯き続けていた。
でも、あまりに長い間二人とも黙っているから思い切って、顔を上げた。
━━━━━━━田中くんも顔が赤い。
私の視線に気がついた田中くんがはっと、我に返る。
「・・・・・・じゃあ、すぐにでも告白しようかな」
「う、うん」
さらに動揺してしまう。
あーあ。墓穴掘った。
話の流れとはいえ、なんで、背中押しちゃうの?!
このまま、付き合っちゃったりするのかな。
「・・・・・・好きなんだ。」
「うん。」
「瑠里ちゃん。好きだよ。」
「うん、・・・・・・へ?」
思考回路が追いつかず、あまりに気の抜けた返事をしてしまった。
そのとき、ドアが開いて、田中くんは、「じゃあね」と私を残して行ってしまう。
じわじわと心拍数は跳ね上がって、全身の血が逆流するような感覚だった。
暑くて、立っていられない。
ここが電車じゃなければ、座り込んでいた。
ずるい。いつも苗字なのに名前で呼ぶなんて。ずるいし、電車降りちゃうのもずるい。
私の中で反芻する田中くんの声
『好きだよ。』
明日、顔を合わせられるだろうか・・・・・・。
◇
「・・・・・・ごめん。やっぱり、迷惑だったかな」
謝っているのは、昨日、私に告白した田中くんだ。
「岡本さん、さっきもあからさまに避けようとしたし、昨日は、告白したら、いけるなんて言われて、いや、その、調子乗った」
い、いや、ちがうんだよ。田中くん。
さっき、避けようとしてしまったのは、私の心の準備ができてなかったからで・・・・・・。
と、言いたいのに、緊張で固まってしまって田中くんを誤解させるばかり。
「岡本さんの、恋愛対象になれてたかすら分からないのに。ごめんね。」
ううん、どストライクなんです。
カッコよくて、こういう風に、相手の気持ちを考えて行動できる、田中くんのことが好きなんです。
「でも、これからも、仲良くして欲しいな」
焦るような表情で、こちらを綺麗な目が捉える。
きっと、その目には、口をぱくぱくさせる金魚のような私が写っているんだろう。
言いたいのに、うまく言えないのはなんで。
で、でも、言うしかないんだ。
「・・・・・・た、田中くん!!」
声を振り絞って、彼の名前を呼ぶ。
それさえ恥ずかしくてたまらないけど、とりあえず、声を出せてよかった。
ただ、なにかを言いかけた田中くんの言葉にかぶすように、言ってしまったから、田中くんが息を飲んで、眉を下げる。
「どうしたの?やっぱり、告白してきた男と仲良くなんてできない?」
緊張でカチコチに固まった体を慣らしながら、話す。
そうでもしないと、また、だんまりになってしまう。
「そ、そうじゃなくて」
大きく深呼吸をして、震える手を抑える。
「私、も、田中くんの、ことが、す、好きなの!」
い、言えた。言った!!
「・・・・・・え?」
当の本人は、顔が真っ赤になって、驚いている。
・・・・・・昨日と立場が逆転した。
「てっきり、俺のことはなんとも思ってないのかと。」
はずかしそうに首を掻く田中くん。
エネルギーを使い切った私は、首をとにかく横に振る。
「俺の、彼女になって、くれますか?」
その言葉に、私も暑くなる。
「は、はい」
「ふ、よかった」
嬉しそうに、顔を綻ばせる田中くんを見て、私も嬉しくなる。と、思ったのも束の間。
ぎゅっと、正面から抱き寄せられた。
心臓のバクバク音に掻き消されそうになりなるけれど、昨日よりも、安心感が押し寄せてきた。
・・・・・・次の日、クラスメイトから、かなり問いただされたのは言うまでもない。
END