「すみません。この口座から、こっちへ移動したいんですけど。用紙って、これで大丈夫ですか。」
窓口の沙織に声を掛けたのは 直前のお客さんが ちょうど帰ったところだったから。
でも、それは紀之の口実。
窓口に座っている沙織の外見が、紀之の好みにドンピシャだったから。
経理課に異動して数日。
毎日、パソコンに入力ばかりで 少々うんざりしていた時。
「紀之さん。銀行に行って来てもらえますか。」
ベテランの女子社員に言われた。
プライベートではATMしか使わない。
銀行の窓口にも慣れた方がいいだろう。
「わかりました。」
と軽快に答えて、立ち上がる。
座っていることに飽きていたから。
丁度、外の空気を吸いたくなっていたから。
ビルの一階、そんなに大きくない支店。
4つの窓口をさっと見た紀之は、右から2番目に座っている沙織に 目が留まる。
色白の綺麗な顔立ち。髪型はショートカットで。紀之の好きなタイプだった。