「沙織のお父さん、結婚に反対しているんだ。」
紀之が言うと、お父様とお母様は、顔を見合わせた。
「違うんです。まだ、紀之さんに会ってもいないのに。反対も何もないんです。父が勝手に、心配しているだけです。」
沙織は、慌てて言う。
「大切なお嬢さんを、お嫁に出すんだものね。心配なのは、当然よ。」
お母様は、優しく言ってくれる。
「私の父、偏屈でワンマンで。何にでも必ず文句を言うんです。でも私、今回は絶対に譲れないから。」
沙織は、涙汲んで、一生懸命伝える。
紀之やご両親に、失礼になってはいけないから。
「私も廣澤に嫁ぐ時、父に反対されたわ。」
お母様は、優しい目で沙織を見て言う。
驚いた沙織は、お母様を見つめてしまう。
お母様は、静かに頷いて、
「家庭環境があまりにも違うのに、主人を支える意味がわかるのか、って言われたの。しかも、会社に何かあれば、全部失うことになるって。」
こんなに静かに話してくれれば、心配の意味がわかる。
素直に答える気持ちになれるのに。
それを、紀之のお母様が、教えてくれるなんて。
「私、紀之さんと一緒なら、どんな苦労もできるから。」
涙を溜めて答える沙織に、
「ありがとう。本当に可愛いお嬢さんね。お父さんが心配するの、当然よ。」
沙織は、必死で涙を堪える。
「早めに、ご挨拶しないとね。紀之で不足する部分は、私達が責任を持つから。みんなで沙織ちゃんを大切にするからね。」
お父様の穏やかな声に、堪えきれずに涙が溢れる。
『私は、絶対に幸せになれる。こんな素敵なご両親に、育てられた紀之さんだから。』
沙織の心は温かな感動で満ちていた。