土曜日の朝、紀之は、いつものように駅まで迎えに来てくれる。

改札口の前、紀之の姿を見たとき、沙織は切なく涙汲む。
 

「おはよう。」と紀之は、明るい目で。

少し照れたように沙織を見つめる。
 
「おはよう。」沙織は、おやっと思う。

あの日の違和感は、勘違いだったのか。

あんなに切なく涙を流したのに。
 


「このまま、銀座まで行こう。沙織にプレゼント買うから。」

地下鉄に乗り込むと、紀之は言う。

沙織もプレゼントを用意していた。
 


「えー。いいよ。私、いつもご馳走になっているから。」

不安が全部、消えたわけではないけれど。沙織は明るく言う。
 
「本当にいいの?何もいらないの?」からかうように聞く紀之。

沙織は拗ねた目で、紀之を見上げて、
 
「いらなくはないけど。」と言う。

紀之は、心地良い声で笑い、
 
「でしょう。遠慮しないの。」と言う。



去年のクリスマスは、バッグを買ってもらった。

一緒に選んだ、高価な新作バッグ。

沙織は今日も、そのバッグを持っていた。
 


沙織は去年、エルメスのネクタイをプレゼントした。

一人でブティックに行き、紀之の顔を思い浮かべながら、選ぶことも幸せだった。

紀之は、とても喜んでくれた。

そして、それを、よく着けてくれる。

今年は、カシミアのマフラーを用意していた。