沙織も母には、彼がいることを話した。
外泊や外出が増えたから。
その度に、適当な言い訳を考えることも面倒だったから。
「ちゃんとした人なの?」母は多くは聞かない。
「うん。心配しないで。私も、もう大人だから。」
父に気を使い、子供達には疎まれ、母の人生ってなんだったのだろう。
「さおちゃん、昨夜もお父さんがね。」
沙織の帰宅を待って、父の愚痴を言う母。
眉間に皺を寄せた、不幸そうな表情で。
「あっ。ごめん、電話だ。」
鳴ってもいない携帯電話に、
「はい、もしもし。」と話しかけ、急いで自分の部屋に入る沙織。
申し訳ないとは思っていても 母の愚痴に付き合い、慰める気持ちにはなれない。
楽しくないから。