「何か、お困りですか。」
銀行のATMコーナーで、操作に戸惑っている男性に、沙織は声をかけた。
丁度、昼食から戻って、窓口に座る前だったから。
「あっ。申し訳ない。どうも、この先へ進めなくて。」
沙織は、男性が操作していた画面を見て、次に進めてあげる。
「ああ。助かりました。」と丁寧にお礼を言う紳士。
端正な顔立ちと、柔らかな物腰で。
「いいえ。操作がわかり難くて。こちらこそ、申し訳ありません。」
沙織も笑顔で応え、男性に会釈する。
とても素敵な紳士だった。
「杉本さん、廣澤工業の社長どうしたの。」
窓口を交替する時、隣の窓口に座っている先輩に聞かれる。
「えっ。」と聞き返す沙織に、
「いま、ATMで話していたでしょう。」と先輩に言われて、沙織は驚く。
「あの方が社長ですか。」聞き返す沙織に
「知らなかったの?」と逆に聞かれる。
窓口に座ってから、沙織の胸はドキドキする。
『紀之さんのお父様だったなんて。』
自分の言葉や態度に、失礼はなかったか。そっと思い返してみる。