紀之とのデートは、いつも誕生日か記念日のように、豪華で贅沢だった。
高級レストランでの食事。
愛し合うときは、ラグジュアリーホテル。
すべてを支払う紀之。
お正月に行ったグアム旅行の費用も、沙織からは受け取らない。
「向こうでの食事とかは、ご馳走になるから。せめて旅費くらいは出させて。」
旅行を予約した時に、沙織が言うと、
「気にしないで。俺が、沙織の分も出したいんだから。」
紀之は、嬉しそうに言う。
「でも。」と口ごもる沙織に、
「いいの。大丈夫だから。」と言う。
紀之の温かな目に、沙織は苦笑して頷く。
『考えすぎるのは止そう。紀之さんが望むのだから。私は、素直に楽しもう。』
と沙織は思った。
幸せ過ぎて、辛くなる時もあったけれど。
みんなが憧れるような贅沢なデート。
穏やかで明るい紀之。
いつも安心して一緒にいられたけれど。
終わりが怖かったから。
いつか別れが来たら。その時の自分が怖かった。
でも、元々前向きで、楽天家の沙織は、気持ちを切り替えてしまう。
今はシンデレラ。
12時の鐘が鳴るまで、思い切り踊ろう。魔法が解けるときまでは。
だって、もったいないから。
こんな素敵な彼と、こんな幸せな時間。
誰もが持てる訳じゃないから。
クヨクヨ悩んで、今を無駄にしたくないと思う。
後のことは後で考えよう。