智くんは 気持ちよく 父に電話をして 説得してくれた。
「ありがとう。智くん 魔法使いみたい。みんな智くんの言葉に 納得してしまう。」
電話を切った後 私は智くんに言う。
「えー。なんか詐欺師みたいで 嬉しくないよ。」と智くんは笑う。
「違うって。智くんの会話の切り口が 予想外で。はっとして聞いているうちに そうかな、って思っちゃうの。」
私は、一生懸命 伝える。
感謝の気持ちを込めて。
智くんは、笑いながら
「ありがとう。俺 一流営業マンかな。」と言う。
「うん。カリスマ。これなら 廣澤工業の発展 間違いないよ。」
私が力説すると 智くんは 心地よい声で笑う。
「それにね、一戸建てに引っ越すって言ったら ママが私を 雲の上の人になっていくって言っていたわ。」
私は、甘えて話す。
絵里加が受験に合格した安心と 新しい生活が始まる不安で 私は智くんに甘えてしまう。
結婚が決まった後の様に。
「麻有ちゃんは 何も変わらないのにね。パパとママが育てた良い子のままで。」
智くんは 優しく話す。
「でも私、絵里加と壮馬のママになったから。」
私は、智くんの胸に寄り添って言う。
「俺と二人の時は、甘えん坊の麻有子でいいんだよ。」智くんは 私の頭に顔を寄せる。
「麻有ちゃんを抱きしめている時が 一番幸せだよ。」
智くんの声は、甘くなっていく。
「私も。ずーと、このままでいたいな。」
甘えが甘さに変わっていく瞬間。
智くんは 私にキスをする。
もう パパとママなのに。