「何年前になるのかしら。」お母様が言う。
「10年だよ。次のクリスマスで。」
智くんが答えてくれる。そして、私を見る。
「そんなに経つの。何か、ついこの間のような気がするけど。」
お母様も きっとあの日のことを 思い出しているのだろう。
真白な服の私を、涙汲んで迎えてくれた日。
「早いね。樹も、来年は5年生だからね。年とる訳だよ。」
お父様が、しみじみと言う。
「私も、しっかりしないと。」
私が、ぽつんと言うと
「いいよ、今のままで。十分。」
と智くんが言ってくれる。
「甘いんだよね、この二人。10年も経つのにね。」
お兄様に冷やかされる。
「紀之も、たまには素直にのろけてみなさいよ。智之みたいに。」
お母様は、笑いながらお姉様を見る。
ねえ、と言う顔で。
「駄目です。私、慣れてないから。そんな事されたら、熱が出ちゃう。」
と、お姉様も笑う。
お兄様が、お姉様をとても大切にしていることは みんな知っているから。
そしてお姉様も お兄様とその家族を とても大切に思っていることを。
本当に、この家族で良かった。
10年経って、さらに感謝の気持ちが増えていく。