お父様の話しを聞いた数日後、
「今日 退職の事、上司に相談したんだ。いつかは そうなると思っていたって言われたよ。これから、残務と引継ぎをして 年内で退職するように動くね。年明けから 廣澤工業の社員になるよ。」
智くんは 細かく私に話してくれる。
「智くん、お疲れ様。しばらくは 大変だと思うけど 一緒に頑張ろうね。」
私は 智くんの目を見て 言った。
「ありがとう。麻有ちゃんには心配かけるけど。俺も 精一杯頑張るから。必ず、良かったって思えるようにするからね。見守っていてね。」
智くんは 私の手を握る。
「頑張り過ぎないでね。ゆっくり頑張ってね。絶対に上手くいくから。私は、いつも智くんの傍にいるからね。」
私は 強くなったと思う。
この10年の経験が 私の自信になっている。
不安で、怖くて、泣きそうな時は 智くんが私を支えてくれた。
ただ、傍にいて抱きしめてくれるだけで 私の心は落ち着いた。
だから 智くんが大変な時は、私が智くんを支えたい。
何もできなくても、傍に居て、抱きしめてあげたい。
「本当に、ありがとう。俺 麻有ちゃんが居てくれれば、なんでもできるよ。」
「今は、私だけじゃなくて 絵里加と壮馬も パパの味方だからね。」
私は 智くんを抱きしめた。
智くんも 腕を廻して 私を抱きしめてくれる。
「なんか、幸せだな。」智くんの言葉に 私の心も 温かい思いが満ちてくる。
「お父様に、早く伝えてあげてね。」抱き合ったまま 私は言う。
「明日、電話するね。週末には 松濤に行って、これからの事を 相談しよう。」
智くんも そのまま答える。
愛する人の ぬくもりを感じ 思いを伝え合う。
お互いが 相手を思いやり 痛みを共有し 力になりたいと思う。
私達は、いつもそうして暮らしてきた。
これからもずっと そんな風に暮らしていく。
私達は、いつも同じ思いだから。
私の愛がある限り、智くんの愛も信じられるから。