「智之と麻有ちゃんが会った年、紀之は塾のサマーキャンプに行ったの。丁度、同じ日程で。最初、智之は退屈してね。でも、麻有ちゃんと会って すごく楽しそうに遊んでいて ほっとしたわ。」
お母様の苦い話しは、いつの間にか 智くんと私の出会いに変わる。
「私が智くんと出会えたの、ある意味で 外交官の伯母さんのおかげですね。」
私は笑って言う。
「千恵ちゃんが大きくなって 夏休みに来なくなったのね。寂しかったのは、智之かもしれないわ。」
お母様も笑う。そして続けた。
「私、今でもお姉さんの意地悪は、忘れられなくて。どうしても、仲良くできないの。千恵ちゃんも、ちっとも可愛いと思えなくてね。お父さんと血が繋がっている姪なのに。でも、お父さんは、それでいいって言ってくれるの。お祖父ちゃんやお祖母ちゃんが亡くなった時も、近くで看取ったのは私だし。お父さんは、私の努力や誠意を わかっているからって。」
お母様は言う。
「お母様、のろ気に聞こえるわ。」お姉様が笑うと
「そうよ。のろ気ているの。いつも麻有ちゃんばかり のろ気ていて しゃくだから。」
みんな、ケラケラと笑ってしまう。
「あの頃を思うと、今は本当に幸せだわ。息子達は立派になって、あなた達みたいな 素敵なお嫁さんが来てくれたし。孫達も、みんな可愛くて良い子だし。お姉さんを、見返せたと思うの。お父さんと結婚する時、反対されたのね。そのまま、親に負けて 別の人と結婚していたら 今の幸せはなかったわ。お父さんも私もね。結婚は、相手次第だから。苦労を共にできる相手ね。
お父さんと私が、結婚したことで 紀之から、樹達。智之から、絵里ちゃん達って命が繋がっていくじゃない。すごく壮大なことよね。だから、絶対に愛する人との命を、繋げてほしいって思うわ。」
お母様の話しに、私は涙汲んでしまう。
「私、紀之さんと結婚できて 本当に良かった。」
お姉様も、涙声だった。
私は、静かに頷くだけで 言葉がでない。
何か言うと、涙が溢れてしまうから。
こんな素敵なお母様の、命を繋ぐことができた喜びで。
「若い頃は、そんな事思わなかったの。でも子供達や孫達が、私に幸せをくれるから。愛が命を繋いで行くって、最高に幸せよね。」
お母様の言葉に、私は涙で 顔を覆ってしまう。
「もう、麻有ちゃんは、泣き虫ね。」とお母様に言われ、
「泣かないで。今、子供達が来たら 私達がいじめているみたいでしょう。」とお姉様は笑う。
鼻をすすりながら 顔を上げると、お母様とお姉様の 温かい微笑みに包まれた。