「樹は 一番大きいって自覚があるから。責任感もあるのね。翔は 普段は甘えん坊なのに 壮君にはお兄ちゃんになれるから。4人 とても良い関係よね。」お母様が言う。
 
「紀之と智之も 兄弟仲が良いからね。どうだろう 智之。そろそろ廣澤工業を手伝ってもらえないかな。」



今日は、お父様に驚かされる事が多い。
 
「なんだよ 急に。びっくりするなあ。」智くんは 答える。
 

「親父も今年で65才だろう。だんだん 会長職に引退して 俺が社長を継ぐ流れになっていてさ。俺は 工学部出身だから 開発とか製造は自信があるけど 営業が弱いんだよね。今の役員も60才前後の人ばかりで。その人達が引退した後 片腕になってくれる人がほしいんだ。」


お兄様は、淡々と話す。
 

「智之は 大手商社で順調に出世しているから うちの足りない所とか 弱い所を強化できると思うんだ。信頼して任せられるし。真剣に考えてみてくれないかな。すぐじゃなくていいから。」

お兄様の言葉を、みんな静かに聞いている。
 

「俺で役に立つのかな。全然 畑違いの仕事をしている訳だし。それに 今いる社員が納得するかな。いきなり俺が入って。」

智くんの意見は もっともで。
 

「もちろん 最初は智之に苦労をかけると思うよ。業種が全然違う訳だから。でも 智之なら大丈夫だよ。営業って 人間性だからさ。今いる社員とも うまくやれると思っているよ。うちの会社 本社の人間は、みんなまともだから。」


男同士の話しを お母様もお姉様も 黙って聞いている。
 


「考えてみるよ。前向きに。俺で役に立つ時がきたら 親父の会社を手伝う気持ちは ずっとあったからさ。廣澤工業 すごく伸びているだろう。随分 特許も取っているし。ただ やるからには 覚悟を決めないと。力になれないなら 意味ないからね。」


智くんが そんな風に考えていた事は 全く知らなかった。

大手商社のエリートで 満足していると思っていた。

私が智くんを見ると 智くんも 優しく私を見てくれた。


心配しないでいいよ とその瞳は言っていた。