「麻有ちゃんの家の冷蔵庫の中、見たことあります?」
お姉様が母に聞く。
「ないわ。どうなっているの?」母が お姉様と私を 交互に見る。
「綺麗に小分けして、部門ごとに整理されているの。すごくきちんと。冷蔵庫のお手本みたいに。」
お姉様は ねっ、とお母様を見る。
「軽井沢の冷蔵庫も、そうなの?」お母様に聞かれて、
「まさか。ごちゃごちゃですよ。うちは。」母より先に、父が答える。
「美奈ちゃんが、なんでも入れるから。」母が言うと、
「私のせい?」妹が笑う。
「麻有子は、昔から整理整頓が 得意だったからね。机の引出しも、いつも綺麗にしていたよね。」
父が、ちょっと得意な顔をする。
「後が楽だから。無駄にならないし。」私は照れながら、言う。
「近くに住んで、麻有ちゃんと会う機会が増えたでしょう。それで 思ったけれど 麻有ちゃんて 本当に良く動いているのよ。」
とお姉様が言ってくれる。お母様も頷く。
「私、最初 お勤めしていたから。専業主婦になって 家の事をする時間が 増えただけです。」
私は 控えめに言う。
「だって、智之さんのスーツ 毎日 スチーム掛けているのよ。びっくりしたわ。」
お姉様に 褒めてもらって、私は智くんを見る。
「結婚した時から、ずっとだよ。あと 靴も。毎日 ブラシ掛けて磨いてくれるよ。」
智くんは、事も無げに言う。
「えー。そうなの。信じられない。」お母様は 女子高生のような声を出す。
「旦那様が ヨレヨレだと 恥ずかしいかなって思って。それに私 クリーニング屋の娘だから。」
「偉いぞ、麻有子。」父は、大きく頷く。
「智之が、家事に協力的なのも 当然のことだね。それだけ尽くす奥さん、いないよ。」
お父様も、驚いて言う。
智くんと私は、見つめ合って笑う。
「お姉ちゃん、努力家だから。料理も上手になったよね。」妹が言ってくれる。
「そうだ。智之、お弁当を持って行っていたらしいよ。」お兄様が、突然言う。
「幼稚園のお弁当の、ついでだから。」
ねっ、と言うように 智くんを見る。
「内勤だったから。外食も飽きちゃうんだよね。」
智くんも、普通に言う。
「お弁当、3つも作っていたの?」
お母様が 驚いた顔をする。
「一つ作るのも 三つ作るのも 同じだから。それに智くんが お散歩してくれるからゆっくり用意できるんです。」私が言うと、
「智之、平日も毎朝 散歩しているの?」
お兄様が、驚いた声で言う。
「雨の日は、しないよ。いい運動になるし楽しいよ。子供達とも、色々話せるしね。」
みんなが、本気で驚いた顔をしている。