国王陛下の指示は、何もするなで解決に結びつかないものだ。

「ランセル殿下はその指示で問題ないとお思いですか?」

能力が高いと言われる人が、この状況をおかしいと思わないのなら、それはわざと見過ごしているから。

ランセルは何か考えるように黙ったけれど、しばらくすると口を開いた。

「陛下のご命令だ。私が口を挟む必要はない」

「……そうですか」

落胆した。彼も国王陛下と同じでバルテルを切り捨てる気なのだ。

「不満そうだな」

「はい。残念です。王太子殿下はバルテルの民を見捨てたりはしないと思っていましたから」

ランセルの表情が曇る。

「聞き捨てならないな。見捨てたとはどういう意味だ?」

「そう思ったまでです」

そう言い口を閉ざすと、ランセルは不満そうに顔をしかめた。

けれどそれ以上追及することはなく、部屋を出て行った。去る間際に「婚約の件については口出しするな」と釘を刺してから。

やけに婚約話に拘っている。ランセルはユリアーネとの婚約が不本意なのだろうか。

誰か他に妃に迎えたい女性がいる?

それとも他の理由が?

例えば、私と関係するベルヴァルト公爵家が気に入らないとか。

どちらにしても、ランセルの婚約の件は出来るだけ関わらないようにしよう。

でも、誰がお茶会での話を彼に伝えたのかは知りたい。

それにしてもランセルが何を考えているのかよく分からなかったな。