「国王陛下は私の部屋には一度もいらっしゃっていません。陛下からお聞きになっていないのですか?」

ランセルの瞳に一瞬動揺が走る。けれど意思の力なのか直ぐに隠れる。

「陛下とあなたの話をする機会は無いからな。だがもしそれが本当だとして、なぜ自分から会いにいかない?」

初めからだけど、彼は探るように私を見据えている。相当警戒しているみたいだ。

「会いに行きましたけど、護衛の兵士に追い返されました」

「嘘を言うな」

ランセルは姿勢を崩し、薄く笑う。

「嘘ではありません」

「あなたが追い払われて素直に帰って来る訳がないだろう?」

彼は心底そう信じているようだ。アリーセが“そういう人間”だと思いこんでいるのだろうけど、なぜここまで頑ななのか分からない。

優秀だと評判の王太子が、悪評だけを信じて人を嫌ったりするのかな?

実は大して出来る男じゃないとか?

小説の中で有能な王太子と書かれていたし、アリーセを断罪して追放殺害までの流れが見事だから信じてしまっていたけど。

様子を見る為こちらからも質問してみようかな。

彼を真っすぐ見据え堂々と告げる。

「ランセル殿下にお伺いしたいことがあります」

「……何でしょう? 王妃殿」

言葉遣いは丁寧であるものの、彼の私を見る目は疑惑と不審感でいっぱいだ。

「本来ならば国王陛下にお伺いしたいのですが。インベル王国の件です」