でもこの女性は真剣そのもので、ふざけている気配は一切ない。

“アリーセ”“公爵”

まさか……まさか……。ある仮定が脳裏に浮かび私はごくっと息を呑む。

そのとき、銀の何かがサラサラと肩を滑り私の視界に入り込んだ。

『! あっ、あの……鏡ってありますか?』

『はい、こちらに。アリーセ様が自ら鏡を見るなんて珍しいですね』

またアリーセって言ってる。予感が現実に変わる不安を覚えながら、渡された手鏡を恐る恐る覗き込む。

その瞬間。呼吸が止まる程、衝撃を受けた。

そこには真っ白な肌。銀の髪、水色の瞳。日本人離れした配色の少女が驚いた顔をして映っていたのだ。

当然私の顔じゃない。それなのに鏡の中の人物は私の思う通りに動き、表情を変える。

思いっきり睨んでみると、鏡の中の少女の目が細まる。

儚げな顔立ちなので迫力はないけれど、やっぱりこれは私だ。

平凡な黒髪黒目だった私の顔が、変ってしまっている!

しかもこの配色はカレンベルク王国物語のアリーセ王妃そのもの。昨日本で読んだばかりなのだから間違いようもない。

アリーセと公爵。そのキーワードから鏡を見る前に、もしかしてと予想していた。

私は薄幸の王妃アリーセになってしまったのではないかって。

けれど実際目の当たりにしても、心は受け入れられない。