本館の公爵執務室。

不気味なほど満面の笑みを、公爵が浮かべている。

「アリーセ、喜びなさい。かねてから検討されていた国王陛下の後添えにお前が選ばれた」

思わず「げっ!」って声が出そうになった私は、必死に口元を押さえ声を飲み込む。

嘘でしょう?

なんでこの時期に結婚が決まるの? アリーセが王妃になるのは十八歳の誕生日。まだまだ先のはずなのに。

私のあからさまな拒絶の空気に全く気付かない公爵は、機嫌良く言う。

「なんて光栄なんだ。お前は私の自慢の娘だ」

何が自慢の娘だ。ついこの前まで害虫でも見るような目で見下していたのに。

「嬉しいよ」

恍惚とした表情の公爵が、私の体に手を伸ばしそっと抱きしめて来ようとした為、咄嗟に後ろに飛びのいた。

「ア、 アリーセ?」

ぽかんとする公爵に私は急いで言い放った。

「ま、待ってください! 私には無理です、王妃なんて」

「荷が重いと臆する気持ちはよく分る。だがお前は名門ベルヴァルト公爵家の長女。後ろ盾にはこの私がついている。自信を持って王家に入りなさい」

手のひら返しにも程がある。自分で言っていて恥ずかしくならないのかな。

しかもこの人は王妃になった後も裏切る。断罪されたアリーセを助けもせず、ランセルと一緒に責め立てたのだから。

とにかく破滅ルートのまっしぐらの王妃になんて絶対になってはならない。

なんとかしてこの危機を切り抜けなくては。