私もそう思っている。でもそれにしてはみんなの動揺が大きいのが気になるんだよね。

「ただの噂かもしれないけど、それでも気にならない? インベルは北の国なんだからもし攻めて来るとしたら、バルテル辺境伯領が真っ先に狙われるんじゃないの?」

バルテルの名を出したからか、ロウが一瞬険しい表情になった。

けれどそれは直ぐに消え、いつもの朗らかさで曖昧にする。

「大丈夫だって。仮に攻めて来たとしてもバルテルには騎士団がいるからな」

「そう言えば、いつも訓練しているって言ってたね」

「ああ。どんな事態にも直ぐに対応出来る。バルテルの民は皆騎士を信頼しているよ」

「そうなんだ。それなら心配ないね……私もいつか騎士たちを見てみたいな」

とは言えバルテルに行くのはなかなか難しいんだよね。護衛なんて簡単に雇えないだろうし。

「いつか連れてってやるよ」

「え?」

思いがけない言葉に、私は瞬きする。

「バルテルを見てみたいんだろ?」

「そうだけど、いいの?」

「ああ、随分興味があるみたいだからな。約束な」

「うん」

私は近い内に公爵家を出なくちゃいけないから実現するか分からないけど、嬉しかった。

不穏な噂は忘れ、明るい気持ちでおしゃべりを楽しんでいると、カウンターの奥の扉が開きガーランドさんが顔を見せた。

「いらっしゃい。何か食べますか?」