その日から屋敷を抜け出ては、町に出る生活が始まった。
本館から来る侍女は私の外出に一切気付かない。家族も相変わらず離れを訪れる気配がないので都合が良い。
回数を重ねる内に町にも慣れた。庶民の暮らしも理解して来ていたし、ロウとガーランドさんとも大分打ち解けていた。
五回目に外出した日、市場で不穏な噂を聞いた。
カレンベルク王国から見て北方に、インベルという小国があるそうだ。
近隣の国との交流は最低限で、基本的には自給自足で暮らしている国。カレンベルク王国の人たちは害のない相手という認識を持っている。
ところが最近、たまたまインベル国に立ち寄った商人が、首都で戦の準備をしているのを見たと言うのだ。