「そのまさかのひとりだけど」

「え……ここまでひとりで来たのか?」

彼はポカンと口を開く。

「うん」

どうせ誤魔化してもばれそうなので、正直に答える。

夜会の時の様子から、ベルヴァルト公爵家とは大した付き合いはないようなので、あとで釘を刺しとけば内緒にしてくれるだろう。

「平気なのか? ひとりで外出なんて慣れてないだろう?」

アリーセはね。でも中身は私だから、どうってことない。

「なんで市場なんかを、ウロウロしてたんだ?」

「なんでって、来てみたいと思ったからだけど」

家出の準備とはさすがに言わない方が良さそう。

「もしかして、家の者に内緒で抜け出して来てるのか?」

「それはそうでしょ。ひとりで町に行きたいって言っても許可が降りないもの」

「……家族に隠してまでここに来たい理由がなにかあるのか?」

「大した理由はないけど、町での生活を知りたくて。私のことばかり言ってるけど、ロウだって抜け出して来てるんでしょ? お坊ちゃまのくせに、髪まで染めて変装して」

私と似た様な状況だと思うけど。

「お坊ちゃまって……俺はいいんだよ。でもリセは駄目だろう、女なんだし何か有ったらどうするんだよ」

「気を付けてるから大丈夫。今だってロウと会わなければ平和に過ごしていたんだし。それよりも私と会ったこと口外しないでよ?」

「分かってるって。それにしても夜会のときと同一人物とは思えないよな」