「いつものを出してくれ、あと飲み物。彼女にはお茶がいいな」

「分かりました」

ガーランドさんは頷くと先ほど来た扉の奥に戻って行く。

「あの向こうに調理場があるの?」

「ああ。直ぐに作ってくる」

「ガーランドさんが作るの?」

「そう。ここは小さな店だから接客も調理もガーランドがやる。ひとり手伝いがいるけど夜しかいないから」

へえ、それじゃあランチタイムは大変だろうな……ってそんな呑気なことを考えている場合じゃなかった。

「ねえ、さっきの人たちって何? 辺境伯家のご令息がどうして追われていたの? 今後私が巻き込まれる可能性はある?」

「ちょっと誤解が有っただけだ。その内解決するから心配しなくて大丈夫」

ローヴァインは軽く言うけれど、本当かな? 追いかけて来ていた人たち、かなり真剣に怒っているように見えたけど。

「それよりここでは家名は出すなよ。俺のことはロウって呼んでくれ。」

「あ、うん。分かった」

たしかに町で身分を明らかにするのは危ないものね。お金持ちの貴族は犯罪に巻き込まれやすそうだ。

「あんたのことは何て呼べばいい?」

「私?……じゃあ、リセで」

少し迷ってから答えた。やっぱり本当の自分の名前の方が馴染むから。

偶然だけどアリーセの愛称としても不自然な感じではないし。

「了解。じゃあリセに質問だけど、町で何をしているんだ? 供は? まさかひとりじゃないよな?」