それにさっきからの彼の言動にも違和感がある。

夜会で会ったときは、自分のことを“わたし”って言っていたし、私のことも“あなた”と呼びかなり礼儀正しかった。良い家の御曹司といった物腰だった。

それなのに今目の前にいる彼は、別人のようだ。

粗野と言うか、ごく普通の若者って感じ。

元々見知っていなかったら貴族だとは思わないだろう。

町にも凄く慣れている様子だし。

「どうかしたのか?」

「いえ、なんかこの前と印象が違うから。貴族なのにこの辺に行きつけの店があるのもどうかと思って」

彼は私の指摘に驚いたようだった。けれど直ぐにニヤリと含み笑いをする。

「それはお互い様だろ? あんただってこの前と全然違う」

「う……まあそれはそうだけど。町で夜会のときみたいに気取ったらおかしいでしょう?」

「気取ってって……あんた面白いな」

ローヴァインは笑いながら、私の腕を掴んだ。

「なに?」

「とにかく移動しよう」

警戒しながらも、まだ聞きたいことがあるので付いて行く。

路地から出て直ぐに目的の店は有った。

看板は出ていないけど、外から中がのぞける。ごく普通の飲食店といった雰囲気で不審な点はない。

「町に来たときは、いつもここで食事をしているの?」

「そう。結構美味いんだぜ。でもあまり知られていないから穴場なんだ」

知られていないと言うより、平凡過ぎて人気がないんじゃないかな。