私の手を掴んだローヴァインが、勢いよく駆け出す。当然私も引き摺られる形で走る嵌めになる。

「ええっ? ちょっと!」

抗議の声も届かず、私は訳も分からないまま、逃亡者のように駆けまわることになった。


酷い目に遭った。

市場の路地裏でぜいぜいと呼吸を乱す私は、隣で涼しい顔をしているローヴァインをじろりと睨んだ。

「ねえ、これどういうこと?」

「ちょっと事情が有って追われててさ」

「それは見て分るから。どうして私を道ずれにしたの?」

何をしたのか知らないけど、ひとりで逃げれば良かったんじゃないの?

「あいつらに、あんたと話しているところを見られたようだったからさ。置いて行く訳にはいかなかった」

私がローヴァインの知り合いと思われて、絡まれる可能性があったと言うこと?

ずいぶん面倒な場面に居合わせてしまったようだ。

「悪かったな。結構走ったから疲れただろ?」

「まあ……」

足は痛いし、喉がカラカラだ。

今まで気にしていなかったけど、アリーセの体は極端に体力がない。

少し走っただけでも息が上がる。長年離れに籠って生活していたから運動不足なんだ。

今後一市民として仕事をしていくには、もっと体力をつけないと駄目だわ。

「近くに俺の知り合いの店があるんだ。そこで食事と休憩をしよう」

「知り合いの店?」

辺境伯家のご令息がどうして町の飲食店に通ってるわけ?