と思いつつも、美味しそうな食べ物への未練が捨てられず佇んでいると、どんと右肩に強い衝撃が襲って来た。

「痛い!」

誰かに突撃された? よろけそうになるのを踏ん張った瞬間、焦ったような声が響く。

「悪い!」

ぶつかって来た人の声みたいだ。視線を向ければそこには若い男性の姿があり、私は思わず目を瞠った。

私より頭ひとつ分以上高い長身。すらりとした身体つき。艶やかな茶髪に紫の瞳。一見しただけで端整な顔立ちだと分かる、とても人目を引く容姿の持ち主。

町の人と同じようなシンプルな白いシャツに黒のカーゴパンツのようなものを履いているけれどこの人って……。

「ローヴァイン?!」

なぜか髪の色は違うけど、顔が先日夜会で会った従兄ローヴァインとうり二つ。

これ絶対本人だよね?

「あんたは……」

彼も私と同じくらい驚いている。間違いなく私をアリーセ・ベルヴァルトと認識している。

でも、どうしてここに? 大貴族のご令息が変装までして何をしているんだか……。
とそのとき、叫び声が響いた。

「いたぞ! あそこだ!」

何事かと声を方に目を向ければ、叫び声を上げたと思われる大柄な男性とその連れらしき人たちが、怒涛の勢いでこちらに迫っている。

え、なにこれ?……この人、何かやらかしたの?

あたふたしていると、ぐいっと腕を掴まれた。

「え?」