夜会の後、エルマ達に警戒していたけれど特に変った動きはなかった。
普段通り公爵邸の離れでの暮らしが続いている。
アリーセの世話をする侍女はひとり。それも母屋からの通いでずっといる訳じゃない。
病気になった時の為使用人が寝泊まりする部屋はあるものの、基本的には放置。
アリーセは孤独で心細かっただろうけど、私としてはかなり好都合だ。
あれから今後について考えた。
元の世界に戻れる気配はない以上、ここで生きて行くのだと腹をくくらなければ。
いつまでも傍観者の気分でいては駄目。アリーセは私なのだ。
元の世界に未練はあるけど、両親は早世していて、私が居なくなったことで大きなダメージを受ける人は少ない。会社には迷惑をかけてしまうかもしれないけど、まあ仕方ないよね。
気持ちを割り切り、前向きに検討する。
結果、ベルヴァルト公爵家を出て行くことを決心した。
アリーセは十八歳の誕生日に、親よりも年上の国王の後添として嫁ぐことになる。だからその前に逃げ出す。
本当のアリーセの人生から大きく外れる行動だけれど、この世界は真実私が生きる世界。小説通りに出来ないのは許して欲しい。
公爵家を出てひとりで暮らしていくからには、住まいと仕事を見つけなくてはいけない。
幸いこの世界は一見ファンタジーっぽい世界観でありながら、生活環境はそれ程違わない。
ファンタジーにつきものの魔法も、大昔は有ったそうだけど今は廃れてしまったらしく存在しない。
日常生活に魔法を使うなんてことはなく、全て人力。家電が無いのは不便だけど許容範囲だ。
私でもそれ程時間をかけずに馴染めると思う。