社交ダンスすら経験がないのに、王宮の広間で踊れる訳ないじゃない。

「もしかして体調が優れませんか?」

ローヴァインが眉をひそめる。

「いえ、そういう訳ではありませんが……あっ!」

上手い言い訳を探していた私は、口を閉ざした。

ローヴァインの背後から、公爵とエルマが近づいて来ていることに気が付いたから。

私の変化に気付いたローヴァインが、目線を追ったのか背後を振り返る。

恐らくローヴァインと目が合ったのだろう。公爵の不機嫌そうだった表情が柔らかくなる。

出来れば来ないで欲しいと願ったけれど叶わず、ふたりは目前まで迫り普段は見せない笑顔を向けて来た。

「アリーセ。ここに居たのか」

ローヴァインが居るため、やたらと愛想が良い。凄い外面だと呆れながらも私も大人しく返事をする。

「はい、お父様」

公爵は次にローヴァインに向けて微笑んだ。

「アリーセの父、ベルヴァルト公爵です。こちらは妻です」

「お目にかかれて光栄です。私はローヴァイン・バルテルと申します」

ローヴァインの振舞いは礼儀正しく完璧に見えた。それでいて公爵にひけを取らない程、堂々としている。

公爵はなぜかローヴァインの素性を知らなかったようで、動揺している様子が見てとれた。

「ローヴァイン殿と言えば、辺境伯家の後継の……これは驚きましたな。こちらにいらしているとは知りませんでした」