「な、なんだよ、いきなり」
「ふと思って。だって辺境伯家の後継者なんだから、いつまでも独身って訳にはいかないでしょ?」
「まあそうだけど。直ぐには無理だからな。落ち着いたら」
へえ、一応考えているんだ。
「相手は決まってるの? それなら私にも紹介してくれない? これからもロウとは仲良くしていきたいし、出来れば奥さんとも友達になれたらいいな」
素直な気持ちを言ったのに、ロウは複雑な顔で黙り込んでしまった。
「もしかして迷惑?」
「いや、俺の結婚は極めて困難だと実感しただけ」
「そうなの?」
まあ確かに問題は山積みだものね。
インベルについては現在進行形で油断出来ないし、マリアさんからの知らせでは、カレンベルク王都もまだ落ち着いていないようだし。
ベルヴァルト公爵は、ランセルの命令で降格し数年の間王都への立ち入りが禁止となった。
公爵は心労のあまり寝込み、エルマとユリアーネは行方が分からなくなったと言う。
リッツ男爵は取り潰し。だけど当主のリッツ男爵も忽然と姿を消してしまっているそうだ。
恐らく三人は共にいる。
伯父様とロウは、私が復讐のターゲットになるかもしれないと、情報収取と守りを固めるよう動いてくれているようだ。
だからロウが結婚する暇はないのかな。
「ごめんね、私のせいでもあるよね」
「ある意味そうだけど、多分方向違いのこと考えてるんだろうな」
ロウがぽつりと何かを呟く。
「え?」
「何でもない。腹減ったから早く用意しよう」
「あ、うん。今日はねお味噌汁と豚の生姜焼きを作ったんだけど……」
こんな風に普通の生活が何より幸せだと感じる。
不安なこともあるけど、これからもこの世界で前向きに生きて行きたい。
そして、もしアリーセの魂がどこかで生まれ変わっているのなら……どうか幸せになって欲しい。