「本日はあなた達に謝罪をして貰う為、来て貰いました」
エルマの目付きが険しくなる。公爵は戸惑いながら返事をした。
「謝罪とはいったい……」
「ベルヴァルト公爵家の長女である私を不当に扱ったことについてです。離れに追いやり、まともな環境も教育も与えなかった。私は以前からおかしいのではないかと考えていまいたが、王妃となって確信しました。あなた達の行いは許されることでは無かったのだと」
私がこんなことを言い出すとは思っていなかったのだろう。公爵とエルマは目を見開く。
リッツ男爵だけは顔色を変えず、ただ私に見定めるような視線を向けている。
「どうしましたか? 謝る気がないのですか?」
黙ったままの公爵に応えを促す。
「い、いえそれは……」
「悪くなかったとでも?」
「いや……」
公爵は青ざめている。元々それ程気が大きい方ではないのだろう。変わりにエルマがいらただし気に口を開いた。
「何を言い出すのかと思えば、今更。不満があるのなら初めからそう言えば良かったでしょう!」
「お、おい」
公爵は強気のエルマを止めようとしている。けれどエルマが止まる訳がない。
「これまで育てた恩を忘れて調子に乗って。誰のおかげで今の地位があると思っているの?」
「少なくともあなたのおかげではないわ。そして何を言おうとあなた達の罪は消えない。エルマ。頭を下げないのなら私にも考えがあります」
名前を呼び捨てたからか、エルマの頬が怒りで紅潮する。
公爵は既に戦意喪失で茫然としている。
「私が受けた仕打ちを社交界の皆に話しましょう。ユリアーネはそれを知りながらむしろ楽しんでいた冷酷な娘だとも。ベルヴァルト公爵家の縁を結びたいと思う貴族はいなくなるでしょうね」