『ベルヴァルト公爵家の事情は少しだけだが耳にしている』

アリーセは思わず息を呑んだ。ランセルにまで自分の噂は届いている。

『君の苦労は想像出来る。だが希望は失わないで欲しい』

『……え?』

不敬になるのも忘れ、アリーセはまじまじとランセルの顔を見た。彼は蔑むでも揶揄うでもなく、真摯な目を向けていた。

『アリーセ嬢はとても心が美しいし令嬢だと私は思う。辛い環境にあっても誰かを恨んだりしていない。私が君の立場ならそんなに純粋な目をしてはいられないだろう』

アリーセは思わず目を瞠った。

ランセルが認めてくれたことが嬉しくて、涙が零れそうになる

ドキドキと鼓動が高鳴り落ち着かない。
ランセルがなぜアリーセを気にかけるのか分からないけれど、王太子という雲の上の人に褒められ、夢見心地になっていた。

『それに姿も美しい。月の光のような銀の髪に湖水のような水色の瞳……君ならいつか必ず幸せになれる』

励ますように言われ、アリーセの瞳からついに涙が零れた。

『あ、ありがとうございます……私などに勿体ないお言葉です……』

ランセルはアリーセに言葉だけでなく希望を与えた。

それ以来、アリーセはランセルを強く慕うようになったのだ。

それは初恋と言える感情かもしれない。

ランセルの姿が遠くに見えるだけで胸が高鳴り、頬が熱くなる。