え? 王太后ってなんだっけ?

「父上と共に、離宮に移って貰うことになるので、そのつもりでいて欲しい」

は? そのつもりって言われても!

「ちょっと、待って下さい!」

「どうかしたのか?」

ランセルが怪訝な表情をする。

「どうして私まで離宮に移るんですか? ランセル殿下が国王になったらマリアさんが王妃になるんですよね。だったら私は城を出て行きたいです」

「何を言ってる? 王妃はたとえ夫に先立たれても死ぬまで王族だ。王家を出るなんて許される訳がないだろ」

「嘘でしょう?」

思わず声を上げると、ランセルが奇妙な物でも見るように眉間にシワをよせた。

「今更何を言っている? 常識ではないか。先に夫に先立たれた妃は、その後の人生を神への祈りに捧げる。今までのように外に出られなくなるが、それが務めだ」

そんな……上手く離婚出来れば出て行けると思っていたのに。

ベルヴァルト公爵家でのスパルタ特訓でも、そんなの習わなかった。

ランセルが言うようにこの世界での常識だから、わざわざ教える必要もないとスルーされたの?

茫然として項垂れる私を手に負えないと思ったのか、ランセルは咳払いと共に立ち上がった。

「では私は次の予定があるので失礼する。あとはローヴァイン頼んだぞ」

いそいそと居間を出て行くランセルの後ろ姿を見送っていると、ロウが今日初めて口を開いた。

「なあ、もしかして本当に知らなかったのか? 王太后は城を出られないって」

「うん……」

「前から感じてたけど、リセの知識は妙に偏っているな」

心底不思議そうに言われてぎくっとした。

「ベルヴァルト公爵家の教育はどうなってるんだ?」

「私だけの問題だから。ユリアーネは普通だと思うよ」

ユリアーネの名前を出したからか、ロウの表情が少し曇った。