「な、何、今の夢……」

凄くリアルな夢だった。

ベルヴァルト公爵家のアリーセの離れの景色なんて、本物と何一つ変わらなくて……。

まだドキドキと波打つ胸を押さえながら、上半身を起こす。

窓に目を遣れば、重厚なカーテンの隙間から光が差し込んでいた。

昨夜は部屋に戻って直ぐに眠ってしまったけれど、そのまま目覚めずに朝を迎えたようだ。

「それにしても今の夢って……」

公爵もエルマもまさに実物だったし、襲われた時の恐怖心なんて真に迫っていた。

本当にただの夢なのかな? 

昨夜あんな事件があった後だし、いつもと違う夢を見ても不思議はないけど、でも凄く気になる。

あれは現実で起きた出来事のように思うのだ。

私がアリーセとして目覚めた時、侍女は“庭で倒れてずっと眠ったままだった”と言っていた。
夢の出来事と繋がっている。

公爵とエルマはその件について何も言って来なかったけど、それは私が何も覚えていないと判断したからなのだとしたら?

思い返してみると公爵は私がロウと親しくなった時、どんな話をしたのか気にして挙動不審になっていた。

あれは私がロウに襲われたことを話したのではと、不安になったからじゃない?

そう考えるとますます、あの夢は現実なんではないかと思えて来る。

でも確認する方法はないだろうな。

知っているのは公爵とエルマと、アリーセを襲った男だけ。

あの男はほぼ間違いなくエルマの弟でリッツ家の現当主だろう。

たとえ王妃として問い質しても答えるはずがない。

私は溜息を吐いた。

ずっと本当のアリーセはどうしたのか気になっていたけれど、あんな最期を遂げていたんなんて。

夢の中ではまるでリンクするように彼女の無念さを感じた。

あのあと、なぜ私の精神がアリーセの体に入ってしまったのか分からないけど……私は新に決心した。

アリーセが願った通り、彼女を傷つけたリッツ男爵とエルマに罪を償わせよう。

そして、アリーセの魂が今頃自由で安らかでいられることを祈ろう。