(そっと戻ろう)

そろそろと後退して離れに帰ろうとしたアリーセは、途中木の枝を踏み抜き、大きな音を立ててしまった。

『誰だ!』

直ぐに怒号が聞こえて来る。

恐怖のあまり、アリーセは走りだした。

『待て!』

柵の扉を抜け、自分の離れに逃げ込む。

自分の住いに辿り着き少し安心したところ、背中を強い衝撃が襲った。

悲鳴を上げることも出来ずに地面に倒れる。

倒れたアリーセの背中に更に圧迫が加わった。

(誰かが乗ってる?)

確認したくても首を動かせない。

苦しさに呻いていると、耳元で聞きなれない声がした。

『余計な真似をしなければ、もう少し長生出来たかもしれないのにな』

(誰……さっきお父様に怒っていた人?)

心臓がどきんどきんと脈打つ。

自分は何をされるのだろう。問いたくても苦しさと恐怖でまともに声が出ない。

『お前の父親は渋っていたが、もともとバルテルの娘は排除するもの。あのとき母親と共に始末するべきだったのにな』

アリーセはかっと目を見開いた。


母は昔亡くなっているけれど、病だったはず。

けれど今の口ぶりはまるで、誰かに殺されたような……。

(どうしてお母様を? バルテルの娘を排除するってなに?)

それまで触れられていなかった首にぐっと圧力がかかる。