寂れた庭にも植物が芽吹いている。
自然に生きるそれらを見るのがアリーセは好きだった。
憂鬱な気持ちも静まって行く。
その日は、社交界デビュー用のドレスの試着をするはずだったのに、手伝いの侍女にすっぽかされしまい落ち込んでいた。
そんな気持ちを紛らわそうとひとり庭を歩いていた時、人が争う声が聞こえて来た。
キョロキョロと辺りを探ると、声は敷地を分けるように立つ柵の向こうからだと分かった。
向こうで誰かが喧嘩をしている?
言い争う声はだんだんと大きくなり心配になった。
離れの敷地から出てはいけないと、継母エルマから言われているものの、気になるあまりアリーセは柵の扉を静かに開いてしまった。
声の方にそろそろと近づき、木の陰から様子を窺う。
『まだあの娘を生かしているのか!』
叫び声を上げたのは、アリーセの見知らぬ男性だった。
大分年上だけれど、父公爵よりは若く見える。
責められているのは父公爵と継母。
父の顔色は悪いが、継母は平然としている。その継母が口を開いた。
『この人の意気地がないから』
息を潜めていたアリーセ目を見開いた。
公爵に対してこんな言い方をする継母を見るのは、初めてだった。
(お父様とエルマ様は喧嘩中なの?)
それにしても随分と物騒な発言をしていた気がする。
(たしか、あの娘を生かしている? 娘って誰だろう)
この家で言えば、アリーセかユリアーネになるけれど。
(もし私のことだったら?)
急に怖くなった。それに盗み聞きをしているのがばれたら大変なことになる。
継母にはただでさえ嫌われているのだ。