「無駄だ。国王は既にお前の声など聴いていない。いや、誰の声も聞こえないか」

「なんだと?」

「本当に気付いていなかったとはな。国王はもう何年も前から正気を失っているんだよ。まともな思考能力などない。私の言うことを何でも聞くか弱い操り人形だ」

う、嘘……操り人形って、そんなの有り得ない。
この前の夜会の時はしっかりと歩いていたじゃない。
ランセルを厳しく叱責したって。

宰相が皆を惑わしているに決まっている。
だけどランセルもロウも衝撃を受け、言葉を失っている。まさか宰相の言葉を本気にしてるの?

「い、いい加減なこと言わないで。人を操るなんて出来るはずがないでしょう!」

ロウ達に冷静さを取り戻して欲しくて、勇気を出して発言した。

すると宰相は私の存在に初めて気づいたかのように、意外そうに片眉を上げた。

「おや、バルテル家の令嬢ではありませんか」

「え……」

宰相の言葉の違和感に私は眉をひそめた。

彼とは王妃戴冠式で顔を合わせている。
私が王妃だと知っているはずなのになぜバルテル辺境伯家の令嬢なの?

仮に私を王妃として認めていないとしても、普通なら“ベルヴァルト公爵令嬢”と言うはずだ。

宰相は不気味な表情で私を凝視している。そして呟いた。