ランセルの問いかけはもっともだ。

自分の本当の父親に危害を加えるなんて、普通は思わないもの。

裏切ったって言ってたから何か誤解が有るのだろうけど、だからって……。

「子供だから親には恨みを持たない。そう考えておいでか?」

宰相は馬鹿にしたような笑いを浮かべながらランセルに問う。

「……全てがそうだとは言わない。だがお前は長年国王陛下に仕えていた。親子と思えなくとも信頼関係が有るからではないのか?」

宰相は大げさと思える程驚愕の表情を浮かべ、それから吐き捨てた。

「信頼関係? そんなものある訳がない!」

「復讐だと言うのか? 十年以上国王の側にいながら、なぜだ?」

「聞かれたからと言って答える訳がないだろう。私の苦労が他人に分るわけがない」

「父の血を引くと自ら言いながら他人と言うのか?」

「他人だろう。それともランセル王太子は、母親違いとはいえ兄に“お前”などと言うのか?」

宰相の指摘に、ランセルははっとしたように息を呑んだ。

「王太子として何不自由なく育ったあなたに、実の親に捨てられた私の心情は分からないのだろう。伯爵家でも厄介者扱いをされた私に寄り添ってくれたのは、母の生家の者たちだけだった。だから私は彼らの願いを叶えたいと思う」

待って、宰相の母親はエルマの叔母なのよね? だとしたら生家というのはリッツ家。そしてリッツ家はインベル王国と関わりがある。

はっとした。

王家がバルテルからの要求を無視し続けた理由。

それは宰相がインベル側の人だから。

では国王は? 宰相に騙されていたのか、もしくは味方をしていたのか。