「そうです。意外でした。ランセル王太子は最後まで気付かないと思っていましたから。国王陛下とは距離を置いているよう見えましたので」
少し前までの慌てぶりは鳴りを潜め、無表情でランセルを見据えている。
冷ややさを感じるその変貌に不安になり、私は無意識に隣のロウに目を向けた。
彼は宰相をじっと見つめているけれど、今のところ動く様子はない。
再びランセルの声がした。
「説明しろ。なぜ国王陛下の忠実な家臣であるお前が、このような真似をする」
「忠実な部下ではないからですよ」
ふざけた感じの返事に違和感を覚えた。
宰相は、冷静になったのではなく、ただ窮地に追い詰められ開き直っているだけなのかもしれない。
「初めから裏切っていたと言うのか?」
「いいえ。裏切ったのは国王の方ですよ」
「なんだと?」
ランセルの顔に怒りが歪む。
「初めに私を捨てたのは国王の方なのですから」
「訳の分からないことを言うな! はっきりといえ!」
「相変わらず激情しやすい性質のようですね。そのような人間が次の王など務まるのでしょうか」
その場にいる誰もが息を呑んだ。宰相ははっきりとランセルを次期王に相応しくないと宣言したのだから。
少しでもランセルの心証を良くしなくてはいけないこの状況で、挑発するような台詞を吐くなんて……。
困惑していると、それまで口を噤んでいたロウが一歩前に進みでてよくとおる声で宰相に話しかけた。