宰相はベッドに横たわる国王を見下ろしていたようだったけれど、扉が開く音にびくりと体を強張らせた。

ゆっくりこちらを向く。ぎぎっと軋んだ音が聞こえて来そうなその動きには彼の動揺がよく表れている。

「ラ、ランセル王太子……なぜここに?」

ランセルの登場は、宰相にとって予想外だったのだろう。まるで幽霊を見たかのように恐怖の目をして宰相は呟く。

ランセルの目付きが険しくなる。

「宰相こそここで何をしている? 私はこの部屋への立ち入りを禁止していたはずだ」

ランセルはロウの調査結果を聞いた時は、宰相が犯人の訳がないと考えていた。

けれど、さすがにこの状況では宰相の行動の不審さを認めない訳にはいかないようだ。

青ざめた宰相が、酷く小さな声で答える。

「陛下の様子を確認しに来ました」

「そなたは医師ではないだろう。何を確認すると言うのだ」

ランセルはそう言いながら、大股でベッドへ向かい、国王の様子を確認した。

ほんの少しだけランセルの頬が緩む。国王は無事ってこと?

そう思ったけれど、緩んでいた表情がみるみる強張るのを見て、胸騒ぎを覚えた。

なにがあったの?

ランセルは国王から宰相に視線を素早く移すと、唸るような声を出した。

「お前が国王陛下に危害を加えたのだな?」

ランセルの中で宰相への疑いは確信に変かしたようだ。

緊迫した空気の中、不意に宰相が渇いた笑い声を上げた。