「悪かったな、言い過ぎた」
態度が悪い謝罪だけど、文句をつける気にならない。
「いえ、気になさらず」
ランセルの苦労を垣間見た気がしたから。
「それよりも襲って来た者の正体を調べないと。幸い皆無事だったけど……あれ?」
周囲を見回していた私は、動きを止めた。
マリアさんはランセルのすぐ隣。ロウは私の隣。フランツ夫人とメラニーの呼吸はもう落ち着い
ていて、ごく普通に佇んでいる。
でもレオナの姿がどこにも見えない。
「ねえ、レオナはどうしたの?」
どこかではぐれてしまった? 怪我でもして倒れていたら大変だ!
「早く探さないと」
慌てる私にメラニーが言う。
「王妃様、レオナなら大丈夫です」
どういうこと?
「レオナは矢が飛んできた直後に、助けを呼びに行きました」
「誰にだ?」
ロウが間髪入れずに問い質す。
「宰相様にです」
宰相? ドクンと心臓が打つ。
「……どうして宰相に?」
普通助けを呼ぶなら護衛兵ではないの?
「レオナは宰相様に目をかけて頂いているのです。ですから簡単に目通りが叶います。宰相様のお力で助けて頂くと言っていました」
レオナが宰相と関わっていた?
そんな……今までそんな話、聞いたことが無かった。
フランツ夫人も把握していなかったようで、驚きの表情だ。
「……国王陛下の警護は問題ありませんか?」
不意にロウがランセルに問いかけた。
「万全だ。常に護衛を置いている……ローヴァイン、何を気にしている?」
ランセルが眉を顰める。
「国王陛下が心配です。後ほど説明しますが今は陛下の無事を確認しましょう」
「あ、ああ」
ロウが足早に王宮に向かう。私達もその後を追いかける。倒れた男たちはランセルの後を追って来た部下に任せたから大丈夫だろう。
それにしても、ロウの態度が気になる。
真犯人は宰相だと示す証拠が出たのかな?
国王陛下の私室の前には護衛騎士がいたが、ランセルを見ると何か言いた気に口を開く。
けれどランセルは話を聞く暇はないと言わんばかりに、早口で命令を下した。
「扉を開けろ」
護衛騎士が慌てて扉を開く。
やがて見えた部屋の中には、ロウが危惧していた通り宰相がいた。