「だったらもっと証言を集めたら? 他の貴族に宰相が夜会にいなかったと証言して貰うんです。その上で宰相にその時間に何をしていたのか確認するのは?」

私はランセルと違い宰相を信用していない。むしろ前から思うところがあった。

更にエルマと交流があるかもしれないと知った今、ますます注意人物になっている。

「貴族の証言などどうやって取る? 宰相が居たか気にしている者など少ないだろう」

ランセルの言うのも一理ある。

「私のお茶会のメンバーを近い内に集めて聞いてみます。女性の方が人を観察しているでしょうから」

フランツ夫人が絞ったメンバーは流行や人間関係に敏感だ。夜会でも油断なく周囲を見ていそう。

「あなたのお茶会か……」

「随分嫌そうですけど、何か問題が?」

「いや、そうではないが」

ランセルは渋い顔をしながらも了承した。

「新たな事実が判明したらすぐに知らせろ」

そう偉そうに言うと、次の予定があるらしく応接間を出て行った。

けれど、彼の座っていたソファーに勲章のようなものが置き去りにされていた。

多分、衣装についていたものだ。かなり高価なものみたいだけど、いいのかな。

「あら。私届けてきますわ」

フランツ夫人がハンカチに包み、ランセル殿下を追う。

なんて人騒がせな人なんだ。しかも宝石を落とすなんて間抜けだし。

はあ、と溜息を吐いていると、ロウがぽつりとつぶやいた。