「王妃様は国王陛下の絵姿をご覧になったことが無いのですか?」
フランツ夫人が怪訝そうに言う。
「あ、そうなの。見る機会がなくて」
誤魔化したけれど苦しい。
公爵家の令嬢が国王の絵姿を見た経験がないなんてあり得るのだろうか。
けれどフランツ夫人はアリーセの家庭環境のせいと納得したようだ。
「ランセル殿下を説得出来たのは良かったですが、ひと月以内に真犯人を見つけるのは難しいですわね」
「私の後に広間を出た人が分ればいいのだけど」
そんなの確認している人はいないよね。とにかく沢山の人がいたし。
「王妃様のあとに出た者はいませんわ」
「え? どうして分るの?」
「私の立ち位置からは広間全体を見渡せましたから」
驚いた。見渡せたからといって全てチェックしているなんて、有能すぎ。
「あ、ありがとう。凄く助かります」
「ですがそれで犯人を捜すのは困難ですわ。外部からでも城の警備の隙をついて侵入する能力がある者なら可能なのですから」
「あ、そうか……だったら動機の方から考えて行った方がいいのかな」
でもそうやって捜査するのも簡単じゃない。
警察で働いていたとか経験があれば良かったかもしれないけど、ただの営業職だものね。
クレーム耐性とちょっと口が回るくらいで特殊技能なんて無いし。
がっかりしているのを察したのかフランツ夫人が励ますように声をかけてくれる。
「ローヴァイン様に相談しましょう。近い内にランセル殿下に目通りを願うはずですから」
フランツ夫人は早々に城下町食堂で待機中のガーランドさんに使いを出している。直ぐにロウに知らせが行くだろう。