「はぁ、」
「そんなあからさまに嫌がらなくても」
ふたりが離れて行ったのを確認してから、郁田さんがわざとらしく大きなため息をついた。
『夏目くんとふたりきりなんてごめんだ』
と言いだけな。
「だって……」
「さっきは可愛い顔見せてくれたのに」
「うるさい。あれは百合ちゃんと間違えて……」
「俺に笑った顔見せるのそんなにいや?」
「いやだよ。夏目くんのこと嫌いだもん」
「俺は好きだよ、郁田さんのこと」
「……」
無視ね。
ポタ、
ポタ、
ん?
頭上から降ってきたそれが、地面のアスファルトに溶けた。
「あっ、」
郁田さんもそれに気がついて空を仰ぐ。
その仕草が、
なぜか俺の鼓動を速くさせた。
伸びた首筋に、綺麗な顎のラインが強調されて。
普段見ない私服の格好も相まって。
触りたくなる。
ポタ、ポタ、ポタ、
落ちてくる雫のスピードが加速して。
「雨だっっ!」
誰かの声と同時に、一気に、
ザーーーーッッ
とバケツをひっくり返したような土砂降りの雨が降ってきた。
「わっ!!」
「郁田さんっ!こっち!」
「……っ!」
大雨に打たれながら彼女の手を取って、急いで雨をしのげそうな場所へと急いだ。