「ねぇ、郁田さん」

「な、なに」

電車に乗ってから一度も口を開かなかった夏目くんに突然名前を呼ばれて少しびっくりする。

寝てると思ってたのに……。

注目を浴びている中での夏目くんとの会話もちょっと緊張するし。

「……手でも繋ぐ?」

「はい?なんでよ」

「他の男が郁田さんのことチラチラ見てんの気に入らないんだよね」

「はぁー?誰も見てないから」

当然のことながら圧倒的に夏目くんが女の子たちに注目されているんだよ。

それで男の子たちも夏目くんが気になってこっち見てるんだ。

私なわけないじゃない。

「俺の、郁田さんなのにね」

っ?!

わざとらしく耳元でささやかれた。

ほんっと油断ならないっ!

「ちょ、夏目くんのものになった覚えとかないからっ」

そう言いながら、彼の吐息がかかった耳をとっさに手で押さえる。

「え?あんなことした仲なのに?」

「……っ、」

ニヤつきながらの彼のセリフに、更衣室や夏目くんのバイト先で起きたことがフラッシュバックする。

ほんっとだいっっきらい!!

「っ、」

「うわ、思い出しちゃった?顔真っ赤。俺以外が見てるところでそんな顔しないでよ」

夏目くんはそう言って強引に私の手を握った。

振り解こうにも、視線がこちらに集まってるままじゃ抵抗がある。

『何あの女、生意気』
なんて思われたくない。

たとえ知らないに人でも。

人目を気にしちゃうのはもう私のクセだ。

最悪な1日がスタートしてしまった。